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トップランナー紹介

果実堂 高瀬貴文氏

Update : 2024.3.15

“カイゼン”を通じて農業を科学する『休める・稼げる』成長産業への転換

土に種を植えて水を撒く。これは、誰もが知っている作物の育て方だ。特に生産現場では、「土づくり」が基本中の基本であり、施肥内容やタイミングなどが重要視されている。しかし、「水やり」についてはどうだろうか?水がないと作物は枯れてしまうが、与える量まで気にしている人はそう多くない。そんな中、「植物体は90%が水なのだから、与える量が育ち方に影響するのでは…」と疑問を持ち、研究を重ねた結果、収量アップを実現。さらに、独自の視点で「生産効率を向上させる方法」の検証を重ね、「農業を科学する」ことに成功した果実堂のビジネスモデルに迫る。

ターニングポイント
『“カイゼン”で農業を成長産業へ』

果実堂は現在、ハウスでの有機栽培のベビーリーフを中心に、アスパラガスの生産も行う農業法人だ。ベビーリーフは野菜の幼葉の総称で、サラダなどの加工品としてスーパーでよく見かけるもの。栽培品目は水菜・小松菜・ほうれん草など季節ごとに異なるが、18種を軸に年間で830トンという国内トップクラスの生産量を誇っている。

事業を率いる高瀬貴文社長は、建築士から農業に転身した経歴の持ち主だ。この道を選んだきっかけは、1995年に起きた阪神大震災。その際、「衣食住」の特に「食と住」の大切さを痛感し、すぐに建築士になった。次に食の分野である農業に携わりたいと一念発起。文字通りゼロから独学で農業のイロハを学んでいく過程で、農業に足りない観点に気が付いた。

果実堂のベビーリーフ

「農業者と接したときに、農業は“しんどい・時間を拘束される・気候まかせだ”といったネガティブな話が多く、 異業種から来た自分は何故なんだろう?と思っていました。」

そうした意見の多くは“農業ってこんなものだ”と現状を受け入れ、諦めているのではないかと感じたという。そこで、これらネガティブな要素を一つでも解消し、より休める・稼げる農業の在り方を模索していった。

「当時は資金力もなく投資する余力もありませんでした。その中で、お金をかけなくても今すぐできる最適化を考えながら、改善点を見つけて実行する“カイゼン”を始めることにしました。」と高瀬氏は語る。

代表取締役社長 高瀬貴文氏

手作業で土壌の水分含有量を研究

まず着目したのが水の管理だ。自身でもマニアだと自負するほど土壌に関することを広く学んだと語る高瀬氏は、その過程で土壌学や生物化学、植物生理学などは存在するのに水に関する学問が存在しないことに疑問を抱いた。

「施肥設計など、農業者は土壌に関しては専門的な知識が豊富です。ただ、水の管理については土が乾いたら水を撒く、雨季は天候に任せるなど、驚くほどアバウトだと思います。些細な疑問でも、納得するまで突き詰めたい私は、全国各地の土を掘っては調査を繰り返しました。」と語る高瀬氏。

独自の研究によって黒ボク土や沖積土といった『土壌の種類』によって含むことのできる水分量が異なること、そして作物が育つ過程においても、水分が多すぎても少なすぎても生育に適さないことがわかった。さらに驚くことに、高瀬氏は手で土を握るだけで水分量が判断できるという。

「触診と呼んでいますが、仕組みとしては握った土の割れ方をみて水分量を判断します。これは訓練次第で身に付けられる技術です。つまりマニュアルにすれば、コストを掛けることなく平準化できる。
果実堂のメンバーは、触診で1%以内の誤差で水分量がわかります。これが出来ないと技術者とはいえませんからね。」と笑う。

「触診」により土壌の水分量を判断

ビジネスモデル
『農業を科学して生産を平準化』

高瀬氏は、土壌の水分量を判別する触診を活用し、土質の違い、そして作物ごとにどれぐらいの水分量が成育に適正かを膨大なデータを集めてマニュアル化。具体的には、根本付近の土壌に含まれる水分量を『A・B・C・D・E・F』の6段階に分け、成育に適した値をC、Dに設定。これは地域によって大きく異なり、果実堂がある周辺の火山灰質では約27%〜32%が理想だという。仮に、触診した数値がFであれば、Cに戻すための潅水量や時間などを誰がみても分かるように示すことで作業を見える化し、安定的な栽培を可能にした。

「水の管理を“カイゼン”すると、作物の成育が早くなり雑草も抑制できます。要は極度な乾燥・多潅水状態など土壌環境が悪いほど雑草は生えやすい。また、適正な水分量で作物の成育が順調であれば、大きく育った作物の葉が影をつくって雑草を抑制する相乗効果もある。これは肥料の使用量を抑えるメリットにもつながり、生産コストの削減にも寄与します。」と高瀬氏は語る。

「土質」ごとに水分量の違いを測りマニュアル化

農業を見える化する“カイゼン”

一般的に農業におけるノウハウとして“経験と勘”が挙げられる。確かに天候や地域の慣行への対応という観点では、この2つが判断基準の重要な要素だが、属人的なものに留まり、多くの人が携わる生産現場では意思疎通を阻害する要因にもなってしまう。そこで、高瀬氏は“カイゼン”活動の1つとして業務が可視化できる作業マニュアルも作成した。

その他にも、使用する農耕具を整理整頓したり、農場や工場で人がスムーズに動けるよう動線を整えたり、搬入がしやすいように冷蔵庫のレイアウトを変更するなど小さな無理や無駄を省いていった。このような取り組みにより、現場で作業する社員も、“カイゼン”の効果を実感しており、“カイゼン”に一層力が入るという。

農工具を整理整頓して整備

「マニュアル化することによって、みんなが同じ基準を持って作業ができます。例えば『この道具はここに置いてある』とわかれば探す手間がなくなり、準備の時間が短縮され、次の作業にスムーズに取り掛かれます。現場で指導する時は『言語を合わせる』という部分で、土壌の水分率も『A』だから水が多い、『CからD』になったので潅水するなど、勘による人それぞれのズレが少なくなりより共通した作業を行うことができます。」と、栽培管理グループ長の塚本さんは語る。

栽培管理グループ長 塚本熙典さん

15年間で3000項目を“カイゼン”
『休める・稼げる』農業を実現

“カイゼン” というのは終わりなき戦いだと語る高瀬氏。この15年間で、様々な分野で“カイゼン”を実行し、その数はなんと3000項目以上に及ぶ。活動を継続していくなかで社員の意識も変わっていき、自主的に効率化を進めるマインドに変化したという。また、若手の新しい発想や技術力も加わり、その取り組みは自動化・スマート化の領域に向かう。

作業状況をリアルタイムで管理

「コストを掛けない部分から、テクノロジーやIoT技術の活用に時代と共にシフトしていきました。しかし押さえなければいけない重要なポイントは、どんなに素晴らしいテクノロジーを導入してもオペレーションする人間の技術がないと、そのテクノロジーは使い物にならないということです。単に自動化といっても、なぜその技術が必要なのか、どれぐらい効果があるのか。そのプロセスが肝です。」と高瀬氏は言う。

果実堂では、 “カイゼン”に必要なシステムを自社のニーズに合う形で内製化してきた。例えば、『商品在庫管理システム』は、ハンディターミナルをかざし読み込むとリアルタイムで出荷状況や商品在庫がシステム上で把握できる。

ハンディターミナルを用いリアルタイムで出荷状況と商品在庫を管理

他にも、働き手の負担軽減として1箱10キロ近い集荷箱を自動で冷蔵室から選別室に運搬するAGV(無人搬送車)を使った『自動運搬システム』や、一日に3000個も作る必要がある折り畳みコンテナを組み立てる『自動オリコン組み立て機』、人為ミスが起きやすい受注・発注や繰り返し行うパソコン操作を代行するRPAのプログラムなど、 “カイゼン”で洗い出される全てを自社開発で対応していると言う。

「 “カイゼン”の結果、効率化が進み、目指していた『休暇や所得』が増えるなど、様々な事が変わってきている状況の中で、農業のネガティブだった部分をポジティブに変えていく事が特に重要だと考えています。」と高瀬氏は語る。

折り畳みコンテナ組み立てロボット

成長戦略
『農業法人向けアグリカルチャーソリューション』

高瀬氏の次の柱となる戦略が「農業法人向けアグリカルチャーソリューション」事業。これは、全国の農業者が抱えている難題を改善するもので、支援内容は「栽培管理全般」から「工場の動線配置の見直し」、「販売支援」まで幅広い。
まず初めに農業者の実際の農場の土壌を自社研究所で科学的に分析し、栽培に適した施肥設計や、育成に適した水分管理の数値をマニュアルに基づきアドバイスする。結果はすぐにでる。発芽率や生育のムラが“カイゼン” 、雑草も抑制され、収量が劇的に上昇する。北は北海道から南は沖縄まで、地域はもちろん、露地・施設といった栽培環境の違い、根菜や葉物といった作物の種類にも対応。果実堂で培ったノウハウを活用することで“収量が伸びない”といった悩みをなくし、やり直しの無駄を省くことが、日本全体の農業効率化に繋がると語る。

自社研究所で土壌分析を行い必要なだけ施肥を行う

さらに、建築士でもあった高瀬氏は『技術の粋』を集め、新規参入をサポートする「ハウスソリューション」事業も開始。パイプハウスの設計・開発を行う事業として、環境工学を基に設計し、作物の育成に最適な環境をつくり出し、強度や耐候性にも優れている「高瀬式高機能ハウス」を世に送り出す。

新規参入という観点から、参入障壁となりやすい設備投資コストは一般的な耐候性ハウスよりも約7割に削減。さらに、強度は風速50mにも耐え、降雪にも強い。最大の特徴は、溜まりやすい暖気を上部の肩側から自動換気できる機能的なデザインだ。また、地面に接する部分に樹脂製のシートを使用し、ビニールを二重被覆するなど気密性を高め、冬場でも高い保温力を保つ。

この他、IoTなどの最新テクノロジーを取り入れ、土壌の水分状態を可視化し潅水制御をスマートフォンやパソコンで遠隔管理することで省力化や労務軽減を追求している。

左写真;高瀬式高機能ハウス

「このハウスを使うことによって年間の栽培回数が14回転(毛作)になり、かつ夏場の収量が倍になるので、通常のハウスより葉物は2倍とれます。これら、我々のコンサルティングによって、実績を上げた方々は多いです。中には、一億程度の売り上げで営業利益がマイナスだった状態から短期間で一億七千万に売り上げを伸ばし、営業利益率が13%に跳ね上がった方もいます。この営業利益率は製造業で平均5%といわれる中で、それを凌駕した数字です。僕らは将来的に、コンサルティングを拡充して地域の指導者をどんどん増やしていくことによって、日本全体の農業を一緒に変えていきたいと考えています。」

今できることから変えていく。高瀬流の“カイゼン”活動の始まりが農業の発展を支える土台となる。

高瀬貴文氏プロフィール

1975年生まれ、大阪府出身。2001年建築士として住友不動産(株)に入社。2008年、(有)西日本農業社に転職。 2010年に(株)果実堂創業者の依頼でコンサルティングとして同社の技術指導を開始、2011年に同社入社。栽培管理部部長・技師長、執行役員、取締役を経て2019年12月より現職。

「株式会社果実堂」データ

年商:20億円
従業員数:170名(パート・アルバイト含む)
株式会社果実堂HP: https://www.kajitsudo.com